日常の情景が切ないほど美しい 「煙と蜜」 あらすじ・感想
「涙雨とセレナーデ」
「天堂家物語」
子供の頃から大正ロマンの作品が大好きな私ですが、
先日
煙と蜜 第1集 (HARTA COMIX)
を衝動買いしました。
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最近読んだ漫画の中で一番好きかもしれません・・・
〜ネタバレあります〜
舞台は大正5年、名古屋。
街には路面電車が走り、街ゆく人々は着物姿。
どこか懐かしい風景が広がっています。
主人公は姫子、12歳。
切り揃えた髪にリボンが可愛い元気な女の子です。
母親や祖父、女中たちに囲まれて大切に育てられています。
母親が病気のため、東京から名古屋に移ってきました。
女中の龍姐、月子、星子、こま子は姫子にとっては姉のような存在。
一緒にちゃぶ台を囲んで食事をし、時には枕を並べて一緒に眠ることもあります。
そんな姫子には、いつも訪問をとても楽しみにしている相手がいます。
18歳年上の婚約者、文治。
軍服を着こなし、タバコを吸う彼は姫子にとって憧れの「大人の男性」です。
文治は姫子のことを許嫁殿と呼び、大人の女性のように敬意を持って大切に接します。
姫子は文治のことが大好きで大好きでたまりません。
一途に彼を慕う様子は本当に健気で可愛い!
それは単に子供が大人に対して抱く憧れではないようで・・・
姫子のしゃっくりが止まらなくなってしまったとき、文治は彼女の耳に指を突っ込んで止めようとします。
思わず真っ赤になる姫子。
その後、ひとりきりになった時にそっと自分の耳に触れる彼女の表情は
恋する大人の女性そのものです。
ある嵐の夜には、
女性だけでは不安だから、と文治も家に泊まることになります。
文治や女中たちと一緒に布団を並べて眠る姫子。
真夜中に目が覚めると、文治がひとり起きてタバコを吸っていました。
姫子が怖くないように、彼女が眠るまで手を握っていてくれる彼。
翌朝、かすかに残るぬくもりと煙草の匂いを感じる姫子でした。
姫子と文治の初々しい恋だけではなく、この作品で感動したのは家族の絆です。
姫子の母は胃潰瘍を患っています。
ある日、女中たちの外出中に吐血してしまう母。
姫子は、転びながらも必死に医者を呼びに走ります。
母親の苦しみに気づかなかった自分を責める姫子に、
母は笑顔で「ありがとう」と言います。
思わず泣き出してしまう姫子。
母娘の愛情が伝わってきて、一番感動したシーンです。
「煙と蜜」では恋敵が登場したり嫉妬に苦しんだり・・・などの事件は起きません。
ただ姫子と文治、周りの人たちの日常が細やかに描かれます。
秋には月見団子を作り、縁側に座って一緒に美しい月を眺める。
胡麻和え、味噌汁、秋刀魚、おひたし、煮付け・・・
おいしい手料理を作って皆で囲んでワイワイ食べる。
日常の一瞬一瞬がこんなにも愛おしく感じる作品は初めてでした。
姫子は大切にされているお嬢様ですが、芯が強く、自分でなんでもやろうとする強さを持っています。
そんな彼女を見守り、ゆっくり時間をかけて愛情を育もうとする文治。
作品の中に流れている空気や穏やかな時間がとても心地良く、
宝物のような本です。
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価格:726円 |